村上春樹のエッセイという事で(とりあえず?)手にしたのですが、本書を読んだ直後の感想は「(表現が)上手いなー!」でした。
プロのエッセイなので、それは上手いに決まっていますが、音楽という抽象的なものの素晴らしさを読者に伝える上手さに素直に驚いてしまいました。
読後しばらくして本書の影響でビルエバンズ・スタンゲッツ等々のアルバムを購入して(勿論LPで!)聴いているのですが、以前とは違ってジャズの面白さがわかり、結構のめり込み始めています。
いわゆる名盤ガイドの役には立たないと思いますがジャズへの愛情がいっぱいで音楽の楽しみを高めてくれるとても素敵なエッセイです。
一番最初にチェット・ベイカーを持ってくるところが村上春樹らしいなぁ、と、まず思った。ジャズ界広しと言えどもチェット・ベイカーのボーカルを凌ぐボーカルがあるとも思えないし、これから出てくるとも思えない。
1950年代から彼はいつの間にか歌い始め『Sings』でその評価を確立した。この若き日のチェットのボーカルを聴いた後で、最晩年のチェットのボーカルを聴く。特にスティープル・チェイスから出ているペデルセン+ダグ・レイニー盤数種。そしてフランスあたりで録音した盤は最高である。人間は徐々に枯れていく。彼の中性的と言われるこのボーカルも枯れていくのだが、この『Sings』のボーカルが熟成し枯れた時どうなるか、だ。そしてトランペットも枯れていく。僕は晩年と若き日々のチェットのボーカルを何度も何度も行き来してしまう一人だ。
お気に入りのCD(いや久しぶりにLPをターンテーブルにのせるのもいいかも知れない(●^o^●))を一枚一枚聴きながら、このエッセイを読む。至福の瞬間である。だから村上春樹はやめられない。